キャピタン・ガニュロのワインについて、私の考え(最新)
私は新たに皆さんにお詫びと共に大きな驚きを伝えなければなりません。
私はこれまでキャピタン・ガニュロのワインについて、そのイメージを私なりの言葉で表してきました。
たとえばクロ・ヴジョー・グランクリュに対しては
「とにかくすべての感覚が、この深いなまめかしい香りと味わいに吸い込まれます。ローソクの光に揺れる深紅の揺らめきはつい今しがたの日常から熱く静かに波打ち、情念の世界へ意識を運びます」
コルトン・シャルルマーニュに対しては
「ヘミングウェイの『老人と海』でようやくカジキマグロとの戦いを終えた老人と、彼の小舟が黄金色の夕日に映える海に包まれている光景に重なります」
その他を記しています。
しかし今回、酸素無透過の袋に入れ、日本に運び、3ヵ月、半年、1年と寝かせるうちに、これらの味わいがやがて現れると期待をし、待ち焦がれていました。しかしこれらの感覚は一向に現れません。このイメージを予想させる片鱗は見えてもまったく異なる味わいに熟成してきているのです。
もちろんどうしてなのか考え抜きました。これらのイメージはブログの「ワイン物語」で述べているように、第1回目の輸入の様々な条件が重なり合って、当時はとても良い状態に感じた時のイメージでした。さらに既に特許を取得したワインセラーの中に紫外線を発生する装置を置き、空気を殺菌、循環させてワインへの腐敗菌の侵入を防ぎ、寝かせたワインでした。
これは6年間の経過を見ましたが、通常のワインセラーに保管したものからすればまったく異なる素晴らしい味わいでした。
これら二つの条件のもとで寝かせたワインを飲んで得られたイメージでした。
しかしよい状態とはいえ、甘さが外に出て完全な状態ではないという認識はありました。しかし今回ずっと時間の経過と共に変化していることに気づき始めました。つまりフランスでの状態とはほぼ変わりのない味わいが時間と共に現れてきたのです。
まず第一にこれまではどのような場合でも必ず現れていたワイン全体の味わいの外に甘みが出るということがほぼありません。
甘さが出る場合は私のこれまでの経験からの確信では次の二つの場合のみです。
1 日本に着いてからの寝かせる時間が足りないと、抜栓した時から甘みが出ている。また抜栓後5~10分は出なくてもそれを過ぎると急速に甘みが出てくる。これは着後味わいの比較的軽いプルミエクリュでは2ヵ月後の状態です。味の濃いものは3~4ヵ月でもこの状態です。
この甘みが約20~25分間、外に出なくなってからがようやく本来の味わいが戻りつつあると思ってよいようです。」
2 日本ではどこに貯蔵しようが逃れることのできない腐敗菌の侵入。微生物の侵入による味わいの変化では100%必ず甘みが外に出ます。
そして前述の紫外線で殺菌した空気を循環させるワインセラーでも甘みは常に外側にありました。これは決して避けることのできないものと私は考えていました。
長い旅の間ずっと揺られ続けたワインは、日本到着時には必ずこの甘みが外に出ています。これを寝かせることによって甘みがかなり抑えられることはありましたが、完全に隠れ、酸味が全体の味わいを収束することはありませんでした。
ワインの甘みが示すもの
酸素無透過のパックは雑菌の侵入は考える必要がないので、出た甘みは寝かせる期間が短いことが原因となります。ワインを1ヵ月、2ヵ月、3ヵ月と寝かせて試飲していきます。
初めから甘みが外に出ていないか。また5分、10分、15分、20分、25分と、いつ甘みが出始めるか特に注意してみます。この甘みはワインが既によくない状態にあるか、または未だ寝かせが不十分かどうかを見分けるもっとも大事で確実は目安なのです。
味わいの薄いワインは3ヵ月を過ぎるとかなり本来の味わいが回復します。甘みは少しずつ消え、やがてはっきりと酸味がすべての味わいをまとめるよう収束してきます。しかし味わいの濃い、クロ・ヴージョ、コルトン・シャルルマーニュなどは7~8ヵ月でようやく少しずつ甘みが隠れていきます。完全に酸味が全体の味わいを収束するようになるには、12ヵ月が必要と思われます。
また同じ等級でも白ワインは赤ワインより甘みが隠れるのが1~2ヵ月早いような気がします。
しかし3ヵ月経てば甘みもすべての味わいが酸味で収束されていた
しかしこのパック入りのワインは寝かせれば寝かせるほど、甘みは隠れていき、軽い芯のある酸味が味わいのすべてを収束していったのです。これはただただ驚きでした。昨年の秋にキャピタンのカーヴで飲んだ味わいに確かに近づいているんだという、胸のわくわくする期待と興奮を覚えました。確かにこれまでの経験とは全く異なる味わいの変化でした。そう私も含めて、この日本では誰もが経験したことのない経験なのです。
前述のワインのイメージに関する記述はこの日本で雑菌の侵入により軽度に変質した、本来の味わいとは異なるこの特殊なケースによって作り上げられた味わいに対する表現だったのです。しかし今、目の前にはフランスでの味わいとほぼ正確に重なるワインがあるのです。さらに味わいはこれまでの私のよい経験と思われる味わいともまったく異なります。
同じワインが雑菌などの侵入によって
全く味わいの表情を加えてしまうという大きな驚き
それにしてもまったく同じワインが雑菌の侵入や保管の状況によってこれほど顔立ちを変えてしまうことは改めて大きな驚きでした。今だからわかるのですが、以前黄金の夕日と思っていたコルトン・シャルルマーニュの味わいは、雑菌の侵入によって引き起こされた軽めの変質でした。しかしすべて味わいは今考えればぼてっとした様々の子あり、味わいが混然とまじりあいすぎた、繊細さを失った味わいだったのです。まとまった1つの味わいがあるだけです。
しかしこのパック入りのワインは様々の繊細な香り、味わいが1つ1つ解きほぐされた、流れるような透明感のある味わいなのです。
以前はキャピタンから頂いたワインの特徴が書かれてあるパンフレットを見ても、スミレの香りと白果実の香りといっても、それらのものはいっしょくたの味わいになっていて繊細で芯のある、幾筋もの香りなんて見つけることができないし、パンフレットで言っている意味がまったく理解できませんでした。でもそれはかえって正しかったのです。実際にそんな幾筋もの香りなんて存在しなかったのですから。でもそれでも輸入された他のワインから比べれば、イルプルーのワインはとてもおいしかったんです。
多量の亜硫酸化合物の入ったワインや、腐って変質したワインでは、それ以上に微細な香り、味わいの表情なんてありません。でもソムリエの方々は実に鮮やかにそれぞれのワインの味わいの表情を描写します。おかしなことです。
しかし今、目の前にあるワインはパンフレットに書いてある表現を1つ1つ感知することができるのです。スミレのような華やかな香り、黒すぐりの香り、白い果実の芯のある香り、男性的な固い味わい、確かに様々な表情が鮮やかに浮かび上がってきます。
私は今、それぞれのワインを飲む時に、パンフレットの字句をかみしめながらそれぞれワインの味わいを確かめ、心に刻んでいます。探れば探るほど、幾筋もの香り、味わいが見えてくるのです。その味わいの深さほど私の感覚は未だ深くはなっていません。さらに試飲を重ねていくうちに、私の心の中にイメージがたまり、もっとはっきりとそれぞれのワインの表情が描けると思います。
とりあえずパンフレットに書いてあるイメージの文は急ぎ取り下げます。
新しいイメージまではさらなる時間を下さい。
皆さんももう一度それぞれの味わいを確認してみてはいかがですか?
ワインとはこんなにも愛しいものかと改めて思ってしまいます。
« 今年のドゥニさん講習会お菓子の試作をしての感想 | トップページ | ドゥニ・リュッフェル氏2013年度講習会 弓田亨の挨拶 »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント