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2013年5月

ふつふつと心に宿る静かなおいしさ。タルトゥ・サンチャゴ

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 今から10年ほど前、うまくて安い栗製品を探しにスペインを訪れました。その時、サンチャゴ・デ・コンポステラに泊まりました。この地は有名な大聖堂があり、キリスト教の巡礼のとても重要な地とのことです。

 この地で食べた様々の料理、肉、魚、野菜の力を持った、細胞めがけて突き進むようなエネルギーをもつ味わいに圧倒されました。ただ「旨い」ではないのです。いつの間にか正に「貪り食う」状態にはまっているのです。

 改めてスペインの土の、私の想像を超えた肥沃さを知った旅でした。

 お土産屋さんに積み上げられた大きな安っぽい作りの薄い箱、スペイン語も読めず、それが「タルト・サンチャゴ」という名であることも知らず買ったのが最初でした。何気なくただ日本へのお土産に買ったものでした。

 日本に持ち帰り、箱のふたを取りました。何とも愛想のない見た目です。タルトゥの周りは崩れて何ともいえずまずそう。「まぁ、せっかく日本まで持って帰ってきたんだから」と言い聞かせて小さめに切って、あまり気乗りせずに口に運びました。

一口を口に入れました。

「ん・・・・・・・・・・・」

 慌ててもう一口。

「おおぅ・・・・・・・・・」

 続けてもう一口。全く予想に反した事態に私の意識は言葉を忘れてしまいました。

「んめーーーーーーーーーーーーーー」

 そのあまりに豊穣の極みの味わいに、小さく五感が震えました。

「こんなにも旨いものが、スペインにはまだまだいっぱいあるんだ」

 スペインの土への畏敬の念を改めて強く感じた時でした。以来、自分がスペインに行けば必ず自分のために買い、また誰かがスペインに行くと聞けば半ば強引に頼む。それほどの旨さなのです。いつか日本でも「タルトゥ・サンチャゴ」を作れたらなぁ。ずっとそう思い続けてきました。

 カタルーニャ地方レリダのアーモンドがなければまず不可能ですし、作ろうという気にもならなかったでしょう。今年の初めごろから何度も試作しました。ずっとの思いが熟してきました。

 タルトゥ・サンチャゴの作り方は昔からの本当に単純極まりないものに決まっています。いくつかの素材をシンプルに混ぜ合わせる。それだけだと思います。何も見ることなしにとにかく頭の中にあるイメージを何度も作りました。決して私の頭の中のイメージが先走りしないように、アーモンドを中心とした素材の味わいを自然につつましやかに混ぜる。それだけを心掛けました。

 派手な味わいではありません。ふつふつと心に宿るしずかなおいしさです。勿論、本物と同じようにとはいきませんが、何とか私の心にかなうものが出来ました。ぜひ食べてみてください。

 本当はタルトゥの中心のマークは十字架です。でもクリスチャンでもない私がそれまで真似をしたら不敬であると思い、IL PLEUT SUR LA SEINEの頭文字のIにしました。

 何か自分のために作ったようなものです。以来、私の心はいつも以上に浮き立っています。以上、ご案内申し上げます。

※このお菓子は買ってから10日間は、たとえ乾燥してもパサついてきてもおいしさは少しも失われません。20℃以下なら冷蔵庫に入れる必要はありません。

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