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ケーキをデコレーションしない理由

お菓子にとって何が一番大事だと思いますか。

勿論それはとびきりのおいしさです。食べる人に心で身体を満たす喜びと幸せを与える為にお菓子はあるんです。

決して見た目を満足する為だけにあるのではありません。私が、初めてフランスにフランス菓子の勉強に行った頃は、お菓子のデコレーションはとてもシンプルでした。表面にチョコレートやココアを一面にかけ、そして真ん中に小さなその店のシール(エティケットゥ・メゾン)が付いているだけでした。しかし、チョコレートの鏡のようなガナッシュや一面に振り掛けられたココアは、寂寥感や、有無を言わせぬフランス菓子の伝統の力などを示し、そして一番大事なお菓子の味わいを深く暗示し、刺激するものでした。しかし今はフランスも日本も奇異をてらった見せかけや素材の組み合わせでお客やマスコミの気を引こうというパティスィエやキュイズィニエばかりです。

肝心のお菓子の味わい、おいしさもうどうでもよくなってしまっています。

フランスも日本も変化し、まずいお菓子ばかりです。そしてそのまずさを隠す為に作り手の自信のなさを隠す為には、プティガトーでも何かをのせてお菓子のまずさを隠そうとする、そんな手合ばかりです。

実は初めの店、そして代官山へ移転してから数年はこれを貫いていましたが、シェフが変わるにつれ、どうしても上に何かをのせようとする傾向は強くなってきました。そして上に何かのることでお菓子は間違いなくまずくなっているのです。

私と、イル・プルー・シュル・ラ・セーヌは、今度イル・プルーで育ち、私の心をよく知っている福田君をシェフに迎えました。これを機にさらにプティガトーのお菓子の表面には味わいを暗示するもの以外はつけないことにしました。

もう一度、私のお菓子作りの中核となる考え方に戻さなくてはいけないと考えました。

そして丸いお菓子を無造作に三角形に切ってショーケースに並べることはせずに以前のように、長方形に全ての形をそろえました。勿論、丸いプティガトーはそのままですよ。

そうするとどうでしょう、本当にお菓子の迫力が、ショーケースのお菓子の綺麗さが    とんでもない力を持ってくるんです。

開店時のショーケースの中、本当に素晴らしいですよ。

そして、ああこれがイル・プルーなんだと思いました。いつの間にか本筋からそれて来てしまっていたことを悔やみ恥かしく感じました。

お菓子はおいしさが全てです。

お菓子の整った飾りにつられてそれを買ってもまずかったら残るのは腹立たしさのみ。他に何の感情も残りません。むしろ見た目と中身の大きすぎるギャップにより頭にきますよ。

おいしかったら多少の仕上げの汚さなんかどうでもいい。少しも責める気にはなりません。それが食べ物なんです。

お菓子の表面に手間をかける余裕があるのなら、それを全てより精度の高い印象的なおいしさの為に注ぎ込め。これが私の開店以来の考えです。

フランスも私が初めて渡仏した頃とは全く別な国になってしまいました。

社会主義政権を通して、仕事をしない人の為のばらまきの国になってしまいました。

私達手仕事の領域は1人のパティスィエがその手で作り続けていくことです。1人の作れる数量は限られています。サイン1つで大きな金が動く仕事ではない。

しかもフランスは週の労働時間は35時間―手作りで物が作れる時間ではありません―

とうの昔にかつての正統な伝統はもう崩壊しています。

おいしさなんてどうでも良い、どうやって手を抜いて形を作り上げるか、そんな手仕事になってしまいました。

奇異をてらったアクロバット的なものを作りマスコミにのり、一発当てよう、そんなパティスィエやキュイジィニエが殆どなのです。

皆さんが有難がているギッドゥ・ミシュランの星も今は完全に昔の正統性を失ってしまいました。星が増えるほど料理がまずくなります。

これは私の揺るぎのない確信です。

 

お菓子は例えば細長く40㎝ほどに作ってそれを幅3cm強に切ります。

プティ・ガトーは切り分けた断面が本当に綺麗なんです。自然の色合いのビスキュイやクレームの色合いの重なり、本当に愛しくなる美しさなんです。これを口に入れる前に是非しっかり見て頂かなければなりません。それでイル・プルーでは透明のセロファンにはさんで、断面が見えるようにしてあるんです。この考えはバースデーケーキにも貫かれています。

今年、イル・プルー・シュル・ラ・セーヌでは、短時間でフレッシュにできるバースデーケーキを揃えましたが、これもやはり、バースデーの嬉しさを一番高めるのはとびっきりのおいしさであり、これを忘れて人形やバラだけをのせるものは作りません。

この新しいバースデーケーキも私が何度も何度も試作を続けて作り上げた味わいです。

勿論、バースデーケーキは印象的な心に残るものでなければいけません。人形やバラなどのデコレーションも大事です。イル・プルー・シュル・ラ・セーヌではとびっきりのおいしさの上にデコレーションを飾りつけます。

 

最後に、プティガトーなどの表面に何もつけないシンプルさは、私達はあらん限りの意識をお菓子の中身、味わいに注ぎ込むという自戒でもあるのです。

 

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