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ペック社のチョコレートについて(1)

〔ペック社のチョコレートやプラリネがすべてのお菓子を力強く蘇らせる〕

 今から二十年以上も前のこと。年々、日本に輸入される菓子の素材は劣化の一途をたどっていました。チョコレートも例外ではなく、フランスに流通するものとは異なる低品質のものが日本に多く輸入されていました。

素材が悪くなれば技術は細かすぎるものになり、作り手も食べても疲れる味わいとなってきます。そこで自分の舌で選んだ素材を輸入しようと、さまざまの困難の末にようやく素材が届き始めました。

当時は最初にパティスリーを開いた元代々木町で、ようやく日本とフランスの素材の違いが克服されつつある頃でした。しかしプティ・ショコラやチョコレートを使った生菓子など、何かもう一つ、納得がいかない味わいでした。ようやくペック社のチョコレートが届き、さまざまのお菓子を作り始めました。すべてのチョコレートのお菓子が蘇ったのです。まばゆい光を放ち始めたのです。今まで何となく古っぽくて、くすんだ味わいの表情しかなかったお菓子が、こんなにも、チョコレート一つで変わるものかと本当に驚きました。初めての渡仏以来、ずっと挑み続けてきた、日本とフランスの素材の調整にかなり身も心も疲れ果てていた頃でした。でもこの新しいチョコレートの到来が、私にまたお菓子を作る楽しみと喜びが大きな力をもって再び溢れてきました。

本当に嬉しかった。

チョコレートだけではありません。プラリネ、ジャンドゥージャも本当においしい。力をもって膨らみ踊る香り味わいに比べるものはありません。

「パティスリー・フランセーズそのイマジナスィオン・フィナル」でも述べた、お菓子作りの最後の目的である、一つのお菓子の中にピレネー山脈の風の動きや大西洋の波のうねりを感じさせるぼうようとした大きな味わいがお菓子作りの最後の目的でした。やっと二年前に達成出来た「ヘーゼルナッツのロールケーキ」は、宙空に飛び立つような香りと味わいのペック社のプラリネがなかったら、おそらく辿りつけなかったのではないかと思います。

 


〔私が見て感じるペック社と、そのチョコレート〕

 ペック社はパリの郊外、サンジェルマン・アン・レイからほど近くの住宅地にある。外観からはチョコレートの向上と気付くことはない小さなレンガ造りの建物の中にあります。年産100トン余りの本当に一度に200kgという少量を手作りの感覚でつkつています。社長のデルシェ氏とお父さんがこのチョコレート工場を知人から譲り受けました。お父さんはカカオバリー社におられ、アフリカや南米にカカオ豆の取り扱い業者との強いコネクションを持ち、少量ではあるが味わいの力強い個性的なカカオ豆やそれによって作られたビターチョコレートを輸入しています。

ヴァローナ社のように大量生産になれば当然大量の個性的なカカオ豆での生産は不可能となります。カカオ豆の選択と共に、デルシェ氏の味わいに対する感覚はとても素晴らしく、個性的でありながら香り、味わい、舌触り、口溶けなどのバランスは他のメーカーの追随を許しません。私にとって心からの尊敬を感じる、まさに「チョコレートのプロであり職人」の技なのです。かれはソルボンヌ大学を卒業後、かなり経ってお父さんの後を継がれたのですが、さまざまの経験と勉強によって、その間隔を磨き上げてきました。

一つのチョコレートはペック社では通常3種類の産地の異なるカカオ豆をブレンドして作り上げます。カカオ豆はもちろん農産物であり、天候に左右され、年によって品質にブレがあります。離れたところにある三か所のカカオ豆によって、天候などによる品質のブレを小さくするためにブレンドします。また一つの産地のチョコレートでは香り、味わいすべてを併せ持っていることはなく、それぞれ特徴のあるカカオ豆をブレンドすることによって一つの印象的な味わいのチョコレートを作り上げます。

このブレンドの感覚は本当に素晴らしいと思います。例えばスーパー・ゲアキルはゲアキル産の芯のある香りをさらに印象的な全体の味わいになるように組み立てられている。

また、ホワイトチョコレート(ショコラ・イボワール)はどんなものと比べても、あまりにおいしすぎます。プティ・ショコラはもとより、生クリームに混ぜてもとんでもなくおいしい。ホワイトチョコレートはカカオバターに砂糖、全脂粉乳を混ぜたものです。最良のカカオバターと共に、フランス産の最良の全脂粉乳を加えます。だからあれだけおいしいのです。原価を下げることにきゅうきゅうとしている大メーカーの全脂粉乳ははたしてどうなのでしょうか。彼は自分の作るチョコレートに大きな誇りと自信、責任を持っています。日本向けに品質を落とすようなことはありません。包容力のあるフランスのすばらしさを讃えた正にチョコレート作りの職人なのです。

 

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コメント

こんばんは

まだ、お菓子作りを始めたばかりでイルプルーもフランス菓子も知らなかった頃、とびっきりおいしいトリュフを作ったことがあります。

雑誌のバレンタインレシピをそのまま作りましたが、知らずにペックのチョコレートを使いました。成城石井の製菓コーナーにそれしかなかったので。

自分も、贈った相手もびっくりしていました。
買ったチョコレートを手作りの箱に入れたのかと思われてしまいました。
あれは今だからわかるけど、ひとえに素材の力だったのですね~。

久々にブログが更新されていて、とても
嬉しかったです。

先日、3年ぶりにお店にお邪魔させて
頂きました。(今回は赤ちゃんつきで)弓田先生のケーキが食べたくて
食べたくて…
やはりどれもとても美味しかったです。
3つ食べてしまいましたが、まだまだ
食べれました。

その中の一つにチョコが使われているケーキも食べました。他のお店のものだと、一つ食べれてやっとというかんじですが、何個でも食べれるというかんじなんです。胃が重たくならないというか、食べた後がさわやかというか…

本当においしかったです。このようなお菓子を提供して下さる、弓田先生その他スタッフさんに感謝です。

いつか貴社のお菓子教室に通うのが夢です。
それまで、弓田先生がんばってください!!微力ですが応援しています。

追伸:ママ友達には、ルネサンスをすすめています。たくさんの人が読んでくれることを願って。

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